高齢者の血圧の正常値:60代・70代・80代の基準と目標
「70代なら血圧は高めでも大丈夫」と思っていませんか。正常値は何歳でも同じで、2025年のガイドラインでは治療の目標も75歳以上を含めて原則130/80未満になりました。ただし、体の状態によっては目標をゆるめることがあります。その考え方を解説します。
60代・70代・80代の血圧の正常値
日本高血圧学会のガイドライン(JSH2025)では、正常値も高血圧の基準も年齢で変わりません(単位 mmHg)。
| 年代 | 正常血圧 | 治療の目標 |
|---|---|---|
| 60代 | 120/80 未満 | 診察室 130/80 未満、家庭 125/75 未満 |
| 70代 | 120/80 未満 | 原則として 60代と同じ |
| 80代以上 | 120/80 未満 | 原則として 60代と同じ。体の状態に応じて個別に決める |
高血圧の基準も、どの年代でも同じです。診察室血圧は 140/90 以上、家庭血圧は 135/85 以上です。
以前のガイドライン(JSH2019)では、75歳以上の目標は多くの場合 140/90 未満とされていました。JSH2025 ではこの区別がなくなっています。分類の全体像は「血圧の平均と正常値」をご覧ください。
高齢者の血圧の平均
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2023年)による平均値です。血圧の薬を飲んでいる人も含まれます。80代だけを分けた値は、この表にはありません。
| 年代 | 男性の平均 | 女性の平均 |
|---|---|---|
| 60代 | 134 / 79 | 131 / 76 |
| 70歳以上 | 138 / 75 | 136 / 74 |
これは「多くの人がどれくらいか」を示す数字で、「健康的な値」ではありません。平均が 138 だからといって、138 を目指せばよいわけではないのです。「上の血圧は年齢+90までなら大丈夫」という昔の目安も、現在のガイドラインでは使われていません。
75歳以上の降圧目標:体の状態で変わる
JSH2025 の目標は年齢で一律に決まるわけではありません。75歳以上では、日常生活の自立の程度に応じて4つの区分で考えます。日本老年医学会と日本高血圧学会の合同ステートメントに示された内容は、次のとおりです。
| 区分 | 体の状態 | 目標の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 自分で通院でき、日常生活が保たれている | 130/80 未満 |
| 2 | 通院に介助が必要で、買い物、食事の準備、薬や金銭の管理などが難しくなってきた | 上の血圧 140 未満(130 未満を目指すかは個別に判断) |
| 3 | 通院が難しく、移動、入浴、トイレ、食事などにも介助が必要 | 上の血圧 150 未満。120 未満への下げすぎは避ける |
| 4 | 人生の最終段階にある | 個別に検討(上の血圧 140〜160 程度が目安) |
どの区分にあたるかは、主治医が判断します。介護保険の要介護認定と必ずしも一致するわけではありません。また、持病によっては別の判断になることもあるので、ご自身の目標は主治医に確認しましょう。
なぜ高齢でも下げるのか。同じステートメントによると、75歳以上を対象とした臨床試験をまとめた解析では、上の血圧 130 未満を目標にすると、心臓や血管の病気、死亡が減り、重い有害事象は増えませんでした。ただし、介護施設で暮らす人や進行した認知症の人は、これらの試験に含まれていません。だからこそ、要介護の方には別の目安が設けられています。
上の血圧だけが高いとき
148/70 のように、上の血圧が高く、下の血圧は高くないタイプは高齢の方によく見られます。年齢とともに太い血管がかたくなり、上の血圧が上がる一方で、下の血圧は下がってくるためです。これを収縮期高血圧と呼びます。下の血圧が正常でも、上の血圧が高ければ高血圧です。
立ちくらみがあるとき
立ち上がったときに血圧が大きく下がることを起立性低血圧といいます。立ち上がったときに上の血圧が 20 以上下がるのが目安の一つです。高齢の方に起こりやすく、ふらつきや転倒につながることがあります。食後に血圧が下がる方もいます。
座って測るだけでは、このような血圧の変化はわかりません。立ちくらみ、ふらつき、転倒があれば、主治医に伝えましょう。薬の調整で改善することもありますが、自分の判断で薬を減らしたりやめたりしないでください。減らす場合も、主治医の指示で1剤ずつ段階的に行うのが原則です。
主治医に自宅での確認を頼まれたら、次のように測ります。
- 座って5分ほど安静にしてから測ります。
- 家族に付き添ってもらい、つかまるものがある場所で立ち上がります。
- 立って1分後と3分後に測り、症状もメモします。
- 気が遠くなりそうなときは、すぐに座って中止します。
自宅で測るとき、ご家族が手伝うとき
家庭血圧は、診察室での1回の値より多くのことを教えてくれます。基本の測り方は「血圧記録表と正しい測り方」で紹介しています。高齢の方は、とくに次の点に気をつけましょう。
- 上腕式の血圧計を使い、カフのサイズを確かめる。腕の太さは年齢とともに変わります。ボタンが大きく、表示が見やすい機種だと続けやすくなります。
- 不整脈があれば伝える。心房細動などがある方は、自動血圧計の値が安定しないことがあるので、測り方を主治医に確認しましょう。
- 朝と晩に測る。朝は起床後1時間以内にトイレを済ませてから、朝食と薬の前に。晩は寝る前に。朝と晩は分けて平均を出します。
- 数字以外も書く。めまい、転倒、薬の飲み忘れ、薬の変更などは、医師にとって大切な情報です。
介護が必要な方の場合は、合同ステートメントでも、測定は無理のない回数(上の表の区分3では週1〜2回など)とし、数値だけでなく症状を重視することが勧められています。入浴については、上の血圧が 160 以上のときや体調が悪いときは控え、湯温は 41℃ 以下、10分以内が目安とされています。
無料の血圧記録表(PDF)は、印刷してご家族の記録にもお使いいただけます。
よくある質問
70代で 135/75 は高いですか?
診察室で測った値なら「高値血圧」で、高血圧の基準(140/90)には届いていません。家庭で測った平均なら 135 は高血圧の目安にあたります。治療中なら、どちらの場合も原則の目標より高い値です。1回の値ではなく、数日間の平均を主治医に見てもらいましょう。
85歳で 145/70 は下げるべきですか?
体の状態によります。自分で通院できて元気な方なら、原則の目標より高い値です。要介護の方なら、上の血圧 150 未満という目安の範囲に入ります。下げるかどうかは主治医と相談して決めましょう。
血圧は年齢とともに上がるものですか?
上の血圧は上がる傾向があります。ただ、多くの人に起こることと、問題がないことは別です。脳卒中や心臓の病気のリスクは、高齢になっても血圧の影響を受けます。
血圧が低すぎることはありますか?
あります。症状がなければ心配いらないことも多いですが、めまい、失神、ぼんやりする、転倒といった症状があれば相談が必要です。とくに薬を始めたり変えたりしたあとは注意しましょう。
とても高い値が出たら。180/110 以上の値が出たら、1分ほど休んでもう一度測りましょう。それでも高く、胸の痛み、息苦しさ、手足のまひやしびれ、ろれつが回らない、見え方がおかしいといった症状があれば、すぐに119番に電話してください。症状がなければ、その日のうちにかかりつけ医に相談しましょう。突然の混乱や、けがをともなう失神、胸の痛みをともなう失神があったときも、すぐに119番に電話してください。
参考文献
- 日本老年医学会・日本高血圧学会:要介護高齢者における降圧療法の適正化に関する実践的指針(合同ステートメント、PDF)
- 日本高血圧学会:高血圧管理・治療ガイドライン
- CareNet:高血圧管理・治療ガイドライン2025の主な改訂点
- 国立健康・栄養研究所:国民健康・栄養調査 身体状況調査の年次推移(血圧の平均値)
- Naschitz JE, et al. Postgraduate Medical Journal, 2007: Orthostatic hypotension: framework of the syndrome